「今日は絶望死の話をしたいんです」
「あれ?介護予防じゃなかったのかい?」
「あ、それもうちょっと後に回します。ちょっと方向性まちというか」
「で、『死』?なに『死』だって?」
「絶望死です」
「なんだか知らないけど、嫌だねー、テーマが重いんだって。まだ夏だっていうのに」
「お盆は過ぎましたけど、夏はあんまり関係ないのでは・・・。」
「死ってね、統計上でいうと、病死及び自然死、不慮の外因死の2種類しかないんですよ。」
参照元:
「ふーん、宗教っぽい話だね。」
「いや、宗教の話ではなくて、統計の話ですって(汗)」
「(だめだ、全然興味を示してくれない)」
「じゃあ、痛い死に方の話をします?」
参照元:医者が明かす「痛い死に方ランキング」ワースト50
https://gendai.media/articles/-/50215?page=3
「痛いのは嫌だよ。」
「痛い死に方の上位はやっぱりガンだそうです。ガンは強い痛みを伴うようですよ。」
「うわーやだねー。」
「えー、それだけですか?」
「そんなこと言ったって、うちの父ちゃんの死因はガンじゃなかったし、おらの姉妹にもガンの人はいないんだよ。」
「では・・。高齢者になると死因第1位だったこともある(※)肺炎も痛い死に方上位に入っているんですよ?」
参照元:高齢者の死亡原因
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-shakai/shiin.html
※現在は一位ではないようです。
死因順位別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii09/deth8.html
「肺炎って痛いのかい?」
「痛いというより、水中で溺れ続けているような息苦しさだそうです。」
「うわー、やだよー。おら、映画のタイタニックが大好きで、ビデオまで買ってみたからわかるんだよ、最期溺れる人はみんな苦しそうだ~。」
「タイタニックは随分溺死するシーンがあったそうですね。」
「うんうん、ヌーソさんもあの映画観たのかい?」
「いえ、私はあの映画途中で寝てしまって全部観ていません・・・。」
「もったいない、おらのビデオ貸してやろうか?」
「いや、そもそもビデオデッキがありませんよ(困惑)」
「溺死が出てきましたが、『死』って言葉、他にもたくさんあるんですよ。」
転落死(てんらくし)
墜死(ついし)
浸死(しんし)
震死(しんし)
轢死(れきし)
煙死(えんし)
横死(おうし)
圧死(あっし)
情死
餓死
衰弱死
突然死
老死(ろうし) etc.
「どれがいいですか?」
「どれも嫌だよ、『自然死』にしてくれ、とにかく痛い苦しいは選びたくないよ。」
「(笑)ごもっともですね。」
「ここでやっと本題なんですが、アメリカでは『絶望死』という死因が問題になっているそうですよ。」
“アメリカの平均寿命が低下し始めた大きな理由は、25歳から64歳の中年の死亡率が上昇しているからだ。ドラッグのオーバードーズ(過剰摂取)やアルコール性の肝臓疾患による死亡、そして自殺が増えている。これらの3タイプの絶望死のなかでオーバードーズがもっとも多く、2017年に7万人が犠牲になり、2000年以降の累計では犠牲者数は70万を超えている。”
引用元:
https://www.foreignaffairsj.co.jp/articles/202003_case/
「アメリカの絶望死を取り扱う著書はたくさんあるんですが、簡単に言うと
①ドラッグ
②アルコール依存による肝疾患
③自殺
この3種で死んだものを『絶望死』と呼んでいるそうです。」
「どれも生きることの辛さから逃げだすために頼ったのが、ドラッグやアルコールであって、その逃げ道も一時のものだということなんでしょうね。」
「飲み屋でアルコール依存の話されてもね・・・。」
「あ、すみません・・・。」
「ギャンブルもそうなんだけど、薬物だろうがアルコールだろうが、それで人生の帳尻は合わないんだよ。」
「かといって、自殺は仕方がないとも思えないんだよね。その立場になったわけじゃないからなんともいえないけどさ。」
「みんな生きてて辛いから、安楽死を認めてもらいたいんだろうね。」
「私は安楽死反対派なんです。まず尊厳死のための安楽死を認めることは譲歩しても、ただ生きるのが辛いからで、安楽死は認めるべきではないと思っています。生きている意味は自分では決められないんですよ。だから死ぬことがゴールなのではないと思っています。」
「?それでは、絶望死は減らないよ?」
「(久しぶりに的を得たことを・・・)」
「私は福祉従事者で、人を救うのが福祉だと思っています。もし安楽死を認めないために、絶望死が増え続けたのなら、福祉の至らなさによるものだと、私は自戒するでしょうね。」
「この絶望死をはりえさんと話すと決めたときから、考えていたことがあるんです。」
「死を喜怒哀楽で例えると
怒り・・・憤死
哀・・・絶望死
楽・・・安楽死
とあるんですが、『喜び』だけがないなと。」
「だけど、人生からの解放により喜んで死ぬことが『自殺』であってはならない、と強く私は思うんですよ。」
「もし、喜びの死があるとすれば、絶望死の反対の『満足死』だろうと思うんですよね。」
「なにをいいこと言った風なことを・・・。」
「おら、100歳まで生きて死んだとしても満足はしないよ。」
「介護を受ける身になって、娘あたりに『早く死んでくれ~』と思われて、おらが死んだら家族に『やっと死んだ』と思われる、それこそ家族が”満足死”だろうさ。」
「え~~(涙)」