ヌーソの皿の上

福祉とpc関係の記事です

居酒屋けんざん(32) 剛腕と劣等感

「はりえさん、剛腕とか凄腕と聞くとどんな印象がありますかね?」

 

「んー、そうだね。

 ・やり手

 ・仕事ができる人

 ・ワンマン

 とかかね。あんまりおらは好きでないタイプだね。」

 

「昭和臭がしますよね(笑)」

 

「カリスマ社長のイメージだね。強引なやり方で成功した人のような印象もあるね。」

 

「ではその強引さでも、成功した理由はなんですかね?」

 

「なんだろうね・・・。

 ・おもいっきりのよさ

 ・運

 ・勘

 かね?現実的にコツコツするようには思えないね。」

 

「で、これどこから出てきたテーマなの?」

 

「私が思う剛腕・凄腕のイメージって、強く出る時と下手(したて)に出る時をうまく使い分ける、強弱のある交渉力だと思うんですよ。福祉現場、特に利用者さん家族にでも、この剛腕さを生かした交渉をしてくる人がいるんですよ。」

 

例えば、

・保育園・・・うちの子は昼寝をさせないで。緊急用でもラインやメールアドレスは教えたくない。

障がい者施設・・・(対象物が吐しゃ物・排泄物だとしても)ゴム手を使って触れるな。気持ち悪いということか?

・高齢者施設・・・通常相談員に相談する内容を「私は施設長さんに直接お話ししたい」といい、一度施設長が対応すると「私は施設長さん以外とは話をしない」などと言い出す。

 

「などと、無理やりならやれなくもない、ギリギリ対応できそうなものをごり押ししてくる方々のことです。」

 

「クレーマーとまでは言えない人たちね。いやいるよね。」

 

「例に挙げた高齢者施設の場合だと、エスカレートする傾向もあるんですよ。

『私は上の人以外とは話さないって決めたの』などとほかの利用者さんに言いまわったりして、ほかの利用者さんと対応に差があることによる二次的なクレームにつながったりするんです。」

 

「あー、自分は特別扱いをしてもらっていることを言って回りたいんだね。」

 

「となると、福祉施設を利用するにあたって、なにが公平なのか、平等なのかと思わないです?」

 

「うーん、交渉能力がある人のほうが特別扱いをしてもらえるということかい?」

 

福祉施設って、医療保険と一緒で、利用者が支払う利用料金の金額は、実際の1~3割なんですよ(生活保護の場合を除く)。なのにサービスに大きな差があるようでは、自分が使う身だとすればどうも納得できないんですよね。」

 

「でも、誰しも自分は特別だと思っていて、特別扱いしてもらいたいと思うもんじゃないのかい?」

 

「私は逆に特別扱いされたくないです。めんどくさがられているような気がして、落ち着かなくなりますよ。」

 

「どちらかといえば、おらもそうだよ。あんまり特別扱いされると逆に気疲れしちゃうよね。」

 

「保育園を除けば、福祉施設を使う方々は、どこかしら『世間一般』と自分を比べてしまっているのではないかと感じています。『世間一般』なんて基準はないのに、福祉施設を利用しないと生活ができないことへの、申し訳なさや劣等感を抱えてしまうようです。」

 

「そういうもんかね?」

 

「この感覚って、福祉従事者たちって一番わからない感覚なのかもしれません。前も話しましたが、私などは上司に『使える補助金は根こそぎ使え、一円も無駄にするな』と習って仕事をしてきました(笑) ほんと言葉は悪いですが。」

 

「そういうもんなのね。」

 

「そんな自分の場合、いかに生活保護基準の状態に落ちても、躊躇なく申請できると思っています。でも一般の方の中には、そうはできない人もいらっしゃるんですよ。」

「人の手を借りること、国にお金を出してもらうことにとても抵抗があるんですよね。」

 

「心がけは立派だけど、あんまり自分を追い込んで考えてほしくはないね。」

 

「だとすれば福祉サービスを利用する事って、劣等感を生む恐れのある状態なのかもしれません。」

「そんな風に自分をいじめてまで使わなくてもいいと思うんです。それどころかこの劣等感が派生して、剛腕・凄腕と呼ばれるような人たちの交渉の原動力になっているのではないかと思えてしまうんですよ。」

 

「社会に認められてきた人ほど、人に認められたいと思うもんだよね。」

 

「特に高齢者の場合、若い頃より社会とのかかわりが減るため、『社会性』も低下するんです。満足した社会人生活をしてきた人ほどそういう傾向にあるようです。」

「施設という箱の中だから、余計に些細なことにも差を感じてしまう。かといって施設として四角四面な対応では、もっと大きなクレームへ増大してしまう恐れもあるわけです。これは包括的、均一的という名の不平等だと思えるんです。」

 

「海外の高級ホテルなどなら、最大級の対応をしてもらえば、それ相応のチップを弾まなければなりませんよね?」

 

「海外に行ったことないからわからない。」

 

「私もテレビで仕入れてきた程度の知識ですが(汗)、なら福祉施設もそうあってもいいのではないかと思うんです。

先ほど挙げたもので例えれば

保育園・・・一人だけ昼寝をさせないということは、別途専用の保育士が必要になるため特別費用が掛かる

高齢者・・・施設長以外の対応を求めないなら、施設長特別対応費用がかかる

などです。」

 

「それはそれでなんだかがめつくないかい?」

 

「そう感じさせるのは、福祉サービスが委託費や保険給付だからなんだと思うんです。保険給付ではなく、サービス利用料は全額現金払いになったとしたら?給付をやめてしまうんです。」

介護保険なら要介護状態になったら、これまで保険給付されていた金額が、直接本人や家族に振り込まれる仕組みにしてしまえばいいと思うんです。そうすると、これまで話してきた利用する側の『劣等感』を抱くことも減ることにつながると思うんですよ。」

 

「このことについては、福祉3.0(3) なら介護保険制度をやめたら?でも話しているので、併せて読んでいただきたいです。」

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