「はりえさん、居酒屋の店員として、一人前になるってどんなことなんですか?」
「おらの代わりができればいいんでない?誰でもなれる」
「いやいや、誰でもではないですよ(汗)」
「きゅうり切って出すだけでいい客もいるからね」
「あ、わたしのことですね?」
「ところで一人前ってどんな意味なんでしょうね?」
「言われてみるとどういう意味なんだろうね?プロってことかい?」
1 一人に割り当てる量。ひとりぶん。ひとりまえ。「—の料理」
2 成人であること。また、成人の資格・能力があること。ひとりまえ。「—のことを言う」「—に扱う」
引用元:goo辞書
「例えば合格ラインがあるということでしょうかね?」
「職人の世界でいえば、免許皆伝なんていうラインがありますし」
「仕事ができるようになると仕事が集まってくるよね。ということは免許皆伝の次は過労死なのかい?」
「今日はいつもよりも辛口ですね」
「福祉を必要とする人たちにとって、『一人前』って何かなーと考えてみたんです。
保育園園児でいえば、保育園は一人前を目指して育つための場所でしょうし、高齢福祉を必要とする人たちは以前一人前だった人達ですよね」
「では、障がい者はどう考えればいいんでしょうか?」
「障がい者の一人前?? なんだろうね。自立した生活ができるってことかい?」
「うーん、なら『自立』した生活ってなんでしょう?」
「そりゃ、自分でご飯を食べて生活できることじゃないの?仕事に就いて給料もらってさ」
「では障害年金をもらって生活をしているではだめなんでしょうか?」
「税金を払っているから一人前と言えるんでしょうか?」
「なるほどね、じゃ別に働いていなくても、一人で暮らせていれば一人前でいいんでないかい?」
「施設に入っていてはダメなんでしょうかね?」
「前にやった『高齢者の恋愛について』でも話しましたが、施設に入っている利用者さんの口説き文句も『施設を出て一緒に暮らそう』だそうです」
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「訪問介護や通所サービスを使う分にはセーフなんでしょうか?」
「それで障がい者の一人前ってどうなるんだい?」
「はりえさんのおっしゃる通り、地域で生活できることを指すようですよ。普通の人と同じような生活することを目指していますね。」
「普通の人として扱われたい、普通の人の様に人の手を借りずに生きれるようになりたいと思っている人が多いのではないでしょうか?」
「普通ね。自立だったり人の手を借りないことだったり、一人前って大変だね」
「でも、人の手を借りないというのは、福祉の手から離れることでもあります。福祉というセーフティネットから離脱してしまうことでもあるんですよね」
「それは、危ないね」
「全員が全員とは言わなくても、人は保育園を利用して一人前を目指し、一人で生活できなくなるようになれば高齢者福祉事業のお世話になるわけです」
「人はできるだけ人の手を借りずに生きたいと思っています。でも高齢者福祉出身の私からすると、人は歳をとれば、いずれ福祉を利用するものと思っています」
「そんな私から見れば、福祉の手から離れることよりも、できるだけ早くセーフティーネット上に身を置き、安心した生活を送り続けることの方が重要に思えるんですよね」
「まあね。言っている意味はわかるよ]
「できるだけ人の援助を借りたくないという考え方とは逆だといいたいんだね?」
「はい、そうです」
「この一人前という言葉もそうですが、『自立』という言葉も都合のいい言葉だと感じているんです」
「前に無人島に個性はないという話をしましたが、無人島で一人暮らしをしている人を『自立』しているといいますか?」
「いわないね」
「テレビでも無人島生活というのをよく観ましたが、過酷な生活の中、水を得ること、食べること、雨風をしのぐことに必死になって生活をしているんですよ」
「そして、無人島生活が終了した日には、無人島『脱出』なんて言っていますよね。言い換えれば、自立していた生活から『脱出』するだと思いませんか?」
「屁理屈気味だけどそうともいえるかもね」
「私が言いたいのは、『個性』とか『自立』なんて言葉は、一種の社会からの評価なんじゃないのかなと思うんです」
「無人島生活を究極の自立として、自立が『一人前』なら、現代社会で生きている我々はみんな半人前ってことじゃないですかね?」
「人と人とが暮らす環境があるから自覚はなかったけど、おらたちは『自立』しているなんて思って生活はしていないよね」
「社会の輪から離れることが、一人前ということではないと私は思っています」