ヌーソの皿の上

福祉とpc関係の記事です

ガバナンスとボトムアップ

 

社会福祉法人のガバナンスについて」

 

2013(平成25)年に厚生労働省より、社会福祉法人の在り方等に関する検討会資料の社会福祉法人のガバナンスについて」が公表されました。

社会福祉法人改革の方向性が見えた資料でした。このあと今日までに法人運営に関わる定款や理事構成、評議員の立場の見直しなど、多くの改正が行われました。

この社会福祉法人改革が行われるまでの経緯としては、保育園が措置から委託に変わるいわゆる民営化が進み、障害者総合支援法から障害者自立支援法へかわるなどの動きがありましたが、一番の改革をする後押しになったのは、やはり特別養護老人ホーム内部留保問題だったのであろうと感じています。

 

 

2013(平成25)年、社会保障審議会介護給付費分科会で特養の内部留保額がクローズアップされました。2000(平成12)年に介護保険が導入されてから、年々膨らむ介護保険給付費に対し、特養の内部留保額は全国合計で2兆円にも上るとの報道がされ、多くの批判が集中しました。

事業継続にかかる費用とは別に、内部留保社会福祉への再投資をするべきだとの世論が強くなり、社会福祉法人のガバナンスの必要性も問われるようにもなりました。

 

この資料内容は大まかにいえば、

 

 

・会計間の資金移動を弾力化

・経営責任を負えるような体制の確立

・法人の経営規模の拡大を可能とする方策をとる必要性

社会福祉事業の拡大や公益事業、収益事業の実施

・事業なども含めた多角的な事業の積極的展開を可能とする必要性

 

でした。つまり社会福祉法人は自分たちで責任をもって事業は拡大し、内部留保はするなということです。

現代でも2017年から社会福祉充実計画の策定をすることになり、社会福祉充実残額を算出するようになりました。社会福祉充実計画というのはどのように社会福祉へ再投資するか5か年計画を立てるようになっています。現代でも十分に影響を与えている資料とは言えないでしょうか?

 

まとめると社会福祉法人のガバナンスが問われるようになったきっかけは、社会福祉という透明性が必要な事業における、資金面の運用と、事業拡大のためだったといえます。

 

コンプライアンスとは
 

ガバナンスという聞きなれない言葉と付随する言葉にコンプライアンスという言葉もあります。

言葉の意味からいえば、

 

 

ガバナンス(governance)とは、統治のあらゆるプロセス

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%90%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%82%B9

ウィキペディアより

 

コンプライアンスcompliance)遵守、従順

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B9

ウィキペディアより

 

とあります。言葉の意味は違いますが、この業界においては、法令遵守コンプライアンス)をするための統治(ガバナンス)といえます。

簡単に言えば社会福祉法人組織を統治するには法令というルールを守りなさいということです。

法令とは、関係法律及び社会福祉法人を監査する側の都道府県・市町村などの関係省庁の指示を守りなさいということにもなります。

ルールを守って社会福祉に貢献しなさいといえば聞こえは良かったんですが、現代の社会福祉法人は果たしてそのようになっているでしょうか?

 

私が危惧しているのは、ガバナンスという言葉が独り歩きし、社会福祉法人のトップたちのためのガバナンスになっていないかということです。

 

経営者のためのガバナンスではない
 

社会福祉法人は毛色上、お上(都道府県・市町村などの関係省庁)の指示は絶対であり、それに対して従順だといえます。言い換えればお上のお達しだといわれれば、私のような下々の社会福祉法人の職員は全て従わなければなりません。

ガバナンスという言葉は、社会福祉法人運営上の管理管轄をしやすくするための言葉にすり替わりやすいのです。

 

強い管理管轄が行われれば、一番影響するのはどこでしょうか?それは職員であり、職員の裁量権とはいえないでしょうか?前にも書きましたが、福祉の仕事は現業です。利用者やその家族のためにいつも寄り添い、支援するための仕事であり、リモートワークでは行えない、人と人とが接する仕事です。その現場にいる職員の裁量権、いわば意思決定権を奪うような統治になっていないかということです。裁量権を奪い、職員の統治上、ルール違反、命令違反だからと職員の責任ばかりを強いることになれば、いつどこで社会福祉法人の経営側の責任が発生するのでしょうか?

 

このガバナンスという言葉が流行りだしたときに、私の上司は、「これからはボトムダウンの時代か来る」と言っていました。ある意味そうなったと感じてしまいます。

ガバナンスの発端になった、資金や給与の問題を度外視した時に、人が集まる組織には何が残るでしょうか?残るものは情緒的なつながりなどではなく、組織が実現するべき理想への共感と、協同のやりがいだとはいえないでしょうか?それはボトムダウン・トップダウンで実現できるものでしょうか?結局カリスマやインフルエンサー頼みの組織になってしまわないでしょうか?

そんな組織で、ガバナンスが徹底していると盛大なアピールをしても、人材難の時代に職員は集まらないと思うのです。

 

 

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 だからボトムアップ

一人ひとりの職員が輝き、福祉へ貢献する仕事ができるようになるには、ガバナンスだけではなく、真逆のボトムアップとの均衡こそが、今後の社会福祉法人の発展に不可欠なのだと思っています。