前回福祉が弱者救済ではなくなってきた話をしました。
福祉の衰退ととらえがちですが、ポジティブにとらえれば福祉のバージョンが変わったのではないかと話したのが前回まででした。
1.日本の福祉はスタグフレーション
前回までは世界情勢だったので、今度は日本の福祉の状態に目を向けます。
選挙での焦点の一つに、高齢者福祉問題がありますよね。
日本の高齢化率は30%近くまで増加し、社会保障は膨張し続けているため、介護保険給付のあり方は常に問題視されてきています。
福祉サービスを受ける側の高齢者は、これ以上の負担は拒みながらも、サービスの維持向上を求めています。そして現状は、給付や費用の問題だけではなくなってきました。
福祉ニーズがいくらあろうとも、この問題を支える支援の手、介護者不足という担い手問題があります。さらに担い手側を集めるためにも報酬の見直しが急がれています。
需要が増え供給が追い付かない状態と言えます。まさに福祉のスタグフレーション状態とは言えないでしょうか?
高齢者福祉の事業所、施設、法人は、施設数や豪華な食事などを提供するサービスよりも、人の総体数問題になりました。多くの利用者を抱え、収益を増やすためにも、職員の確保が必須な状態。利用者を呼び込むために職員を先に呼び込む状態なわけです。そこには利用者・介護員や職員という差はありますが、グループとして人の総数が大きくないと福祉ニーズを解決できない状態ですよね?
ということは、人の利用が多いところに、福祉ニーズの解決の糸口があるということになります。
2.供給の適正化をするためのヒント
福祉が需要に答えられない状態にある以上、問題を解決するには”供給の適正化“が必要とされ始めているということではないでしょうか?かといって、これ以上国や地方自治体にさらなる供給を求めることは厳しい状態だと思えます。
この問題解決の一つのヒントとして、私は前回の 福祉3.0(1)時代の変化 でも取り上げた通りに、「個人が福祉への出資をする」ことだと思っています。ポイントは個人に「負担」を感じさせないということです。その課題として、果たして個人が福祉にお金を掛けるようなことがあり得るのかですよね。
ここで、日本の大企業に目を向けてみます。通信のキャリア会社(docomoやauなど)の次の顧客はどう変化していくでしょうか。
日本の高齢化が進んでいることは、日本企業の顧客もより高齢化が進んでいるわけです。
より広い顧客確保のためにグローバル化を進めている会社も多いですが、特に通信会社の場合、海外で展開するには、その国の土地に基地局を置かなくてはなりません。いくらソフトバンクがNTTより売上高を抜いても、ほかの国でも使われているとは聞きませんよね。(海外ローミングはあります)
先日、ウクライナがロシアに軍事侵攻を受け、ウクライナ国内で深刻な通信障害が発生した時には、イーロンマスク氏が「スペースX」の衛星を使ったインターネット接続サービス、スターリンクを提供したとニュースでやっていましたよね。
そして、そのスターリンクは2024年にauと連携し、日本国内でインターネット接続サービスを開始するともニュースに出ていました。
もう基地局のために、土地を買うような事業展開はしない時代が始まっているわけです。そして、イーロンマスク氏が率いる「スペースX」が世界の通信キャリアを席巻する勢いなわけです。
では日本の通信関連業者は、これからの活路をどこに目を向けている想像してみてください。
日本国内での拡大維持を考えると、高齢者層の取り込みは必須です。ですが、高齢化が進めば、スマホ操作などの説明などをしてくれるなどの手厚いサービスが必要になります。
全国に拠点があり、高齢者が集まり、高齢者の対応のエキスパートが集まる場所と言えば?
全国には様々な介護事業所がありますよね。
基本であるキャリア事業はしながらも、高齢者を多く抱え込むことがこれからの事業展開に必要だとすれば、この拠点数は利点ではないでしょうか?
ここまでは日本の通信業者にだけスポットを当てました。
これは一例とはいえ、日本国内の企業であれば、いつ福祉事業参入に船首をかえすかわからない状態ではないでしょうか?デイサービスや訪問介護であれば、もううまみがないことはわかっているんですから、介護保険を利用しての福祉サービスではないはずです。
となれば、介護保険を使わずに、高齢者が喜ぶようなサービスの創設ということになってきます。
3.企業が提供する社会保障
本来、個人の出資といえば、クラウドファンディングのようなものも指しますが、人が集まっていて、個人が出資したくなるようなリターンのある福祉サービスを提供できる事業となれば限られてきます。
利用客の多い通販サイトのamazonは、kindleやアレクサというamazonサービスを受けることに特化した端末を販売しましたよね。この商法は従来までに多かった「人」を抱え込むやり方ですが、コロナ後の物価高騰などにより、経営悪化時には提供サービスも悪化しました。ということは、方向性はスマホだとは言え、使用している端末で囲い込むやり方でないということです。
だとすると、キャリア(auやソフトバンクのような通信会社)やSNS(Xやインスタグラム)など利用者の多いサービスに付随した事業なら行えると思えないでしょうか?
例えばアップルは、昔はPCだけしか販売していませんでしたが、スマートフォンという通信用端末を販売しだし、今は時計や眼鏡、そして金融業にまで進出を始めました。より人々の生活に密着した事業展開を始めています。
同じように、yahoo(LINE)やau・楽天も保険業やポイ活などと呼ばれる、一種のいわば金融業を始めていますよね。
そして、googleやトヨタは街そのもの自体をつくり、新たなビジネスモデルを見出そうとしました。
これらの動きは、より私たちの生活に様々な提案をしつつ、事業展開を手探りし始めているように思えないでしょうか。
その大企業達が、より高齢者層確保のため国の提供する社会保障とは別の、独自でかつ安い費用で社会保障が利用できるようになったら?
それは施設入所までは無理だとしても、もう実際にあると思うんですがさすがに調べきれません。
なので想定して例をあげれば
・ドコモのスマホをもっているユーザーで、ドコモのGPS見守りサービスに申し込むと、介護保険を使わずにドコモで提供している訪問介護が利用できる。(介護サービス事業)
・Xにアカウントがある親御さんは、市町村に申し込みをしなくても、Xが提供するこどもの一時預かりサービスやベビーシッターが利用できる。(預ける・預かる側の身元保証によるサービス提供)
・現金ではなく、楽天ポイントやauポイントでしか支払うことができない、最新の福祉用具貸与サービス。(商品の試作試用や顧客の囲い込み)
などは容易に想像がつかないでしょうか?(企業名は適当につけましたので、実在はしません)
企業側の顧客抱え込みのために、福祉サービスが提供される時代が近づいているのだと、私は感じています。実際に下請けのサービス提供する側としても、
「●●事業所は介護保険サービスだけだけど、△△事業所はソフトバンクの福祉サービスも使える」
などのフレーズを見たときには、利用者は大企業の後ろ盾があるという安心感をもち、それでいてサービス自体をお得に感じることにもなります。
これまでの「公共の福祉」のように、全国一律のサービスでかつ経済に依存し続けるのではなく、企業先導型になれば、その構想はダイバーシティ化も視野に入れた展開になるでしょうし、結果SDGsにつながります。ということはその企業で勤めたい、社会貢献に興味のある働き手を集める手段にもなるわけです。なので実際に企業はそう動くものと思っています。
次回は、福祉3.0(3)なら介護保険をやめたら? をお送りします。