意識不明になった94歳男性 医師は家族の希望に反して経管栄養…終末期医療は誰のためのもの? 5/5
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20230421-OYTET50001/
“家族の中には、鼻チューブや胃ろうではなく、中心静脈栄養であることを誇らしげに言う人がいます。鼻チューブや胃ろうは、悪者扱いされているからです。しかし、中心静脈栄養と鼻チューブや胃ろうかは、栄養を送る方法が違うというだけで、寿命が尽きた高齢者を延命するという点では同じです。”
“厚労省は本人の意思を終末期医療に反映させるために、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を作りました。それには「患者本人による決定を基本とすること」と記載されています。しかし、このガイドラインを知っている医師は少なく、現場ではいまだに普及していません。”
“現在、延命しないで死んでいける主な場所は、自宅や一部の介護施設です。病院死が減った分、介護施設での看取りが増えています。”
“長期入院の病棟では依然として、延命医療が続いています。そして10年前に比べて不要な医療が増え、高齢者はさらに苦しんでいます。高齢者が安らかな死を迎えるためには、長期入院の病棟の診療報酬制度を変える必要があります。”
今日は母の日ということもあり、予定を変更し、先日亡くなった私の母の話を交えてお話しさせていただこうと思います。
1.私の母と経管栄養
私の母は内臓疾患を患い、半年くらいで一気にほぼ寝たきりにまでなってしまいました。意識はあるようでしたが、会話が思うようにいかなく、またほぼ口腔摂取ができない体になりました。それでも途中までは、点滴を併用し栄養を補っていました。
ですが、口腔接種量が一定を下回りだしたところで、医師より胃ろう・鼻腔を含めた経管栄養の判断を迫られました。
その時の母の状態は、私と面会し、私からの「私のことがわかるか?」「今日は何日かわかるか?」という問いに正確に答えられる状態でした。恐らくですが経管栄養の判断についても時間をかければ、本人判断ができたものと思われます。
それでも医師が経管栄養の有無を、家族である私に判断を委ねたのは、
- 状態は内臓疾患のみであり、現状からの状態回復が見込まれるため、適切な栄養摂取を勧められたこと
- 高齢であるため、血管が細くなっており点滴ができる箇所が限られてきたこと
- 認知症状が出てきて、食事の摂取が難しくなる恐れもあること
などの理由があったからでした。
母はこの状態になる前から、スパゲッティ症候群(※)の様になってまで命を延ばすようなことは望まないとよく話していました。
※
スパゲッティ症候群(spaghetti syndrome) - 入院中の患者が人工呼吸器や点滴、心電図のセンサーなどにつながれた状態の比喩。
それがあったため、母が回復する望みもあることを理解しながら、私は母の経管栄養については拒否をしました。それが本人の望みであることも医師に伝えました。
母はとても食いしん坊な人でした。大きな疾病がわかる通院の日も、同行した私に「帰りにそばが食べたいから連れて行ってほしい」と話していました。私はあまり天ぷらが得意ではないのに、母のことですから、私と二人で天ぷらそばを食べるつもりだったのだと思います。
ですが、その母の望みは叶わないまま、母はその通院を機にこの入院生活が始まったのです。
経管栄養にし、回復に望みをかけていれば、もしかしたら今頃、母に天ぷらそばを食べさせられたのかもしれません。
私が胃ろうや鼻腔栄養の施行を断った後、点滴が思うように入らなくなったため、母は中心静脈栄養(点滴)に切り替えられました。そしてその数ケ月後、母は他界することになります。
こんな記事も書いているのでご覧ください。
2.経管栄養についての知識として
上記で取り上げた記事には、「鼻チューブや胃ろうは、悪者扱いされている」という文面が見受けられますよね?
私が介護職員だったのはずいぶん昔のことです。当時はまだ措置時代で、介護保険という大波の前夜でした。そんな中、施設に初めて胃ろうの利用者さんを迎えることになりました。介護スタッフも知識が乏しい中での受け入れでした。あろうことか我々は早く口腔接種できるように、口からの水分摂取を推し進めるようなことをしていたんです。今となればそれは恐ろしいことをしていたと思います。高齢の方で胃ろうや鼻腔栄養をしている人に、口腔接種、特にとろみのない水分などの摂取は肺炎に直結するので、介護職員だけでそのようなリハビリはしてはいけないと知ったのは、そこから2~3年経ってからでした。
名誉のために言いますが、家族は私たちのこの危険なリハビリに感謝してましたからね。
そんな頃から、うん十年の月日が経ちましたが、口腔接種→中心静脈栄養→胃ろう・鼻腔栄養に切り替わった人は多くいても、胃ろう・鼻腔栄養→中心静脈栄養→口腔接種と回復した人の例はそう多くない現状もあります。それが「悪者」扱いされる理由なんです。
つまり、胃ろう・鼻腔栄養になった後、母が天ぷらそばを食べられるまで回復したかといえば、かなり確率は低いことだったんです。経管栄養の方が口腔接種まで回復するには、ST職との相当なリハビリを必要とすることはご理解いただきたいです。
3.だからエンディングノート
ある程度の知識を有しているつもりの私でも、母の経管栄養に踏み切らなかったことは、果たして正しかったのかと自問することが未だにあります。わずかな可能性にかけてみなかったのは薄情だったのではないかと。
それでも、たどり着く答えは経管栄養の拒否だと思います。なによりそれが母の意思だったからです。
財産分与や遺産の話はよく耳にしますが、ぜひ自分がどのような最期を迎えたいかも家族にお話してください。そのためにエンディングノートというのもあります。
良ければこちらもご覧ください。
残された家族は、必ずその判断に迷うことになります。家族が、その判断に苦しめられないよう、何かの機に話し合ってみてください。きっと母の日というのも良い機会ではないでしょうか?
最後ですが、母が亡くなり葬儀が行われる日、私は母の供養と思い、お昼に天ぷらそばを食べました。久しぶりに食べたら案外おいしかったです。