5/22(月)より3部構成でお送りしました、保育現場での虐待・不適切保育についてのシリーズ最終回です。
5/15(月)こども家庭庁調査による「不適切保育」914件 、「虐待」は90件 まとめ
5/19(金)保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン 保育園用要約
本来であれば、5/15(月)で掲載したニュースのまとめの対で、本記事を掲載したかったのですが、掲載予定の関係上、一週間遅れになってしまいました。
今回の記事の元になる、こども家庭庁が出した調査結果は、合わせると1000ページ近くになる資料のため、本記事では不適切保育そのものに注目した内容になります。
1.この問題の報道内容
「保育所等における虐待等の不適切な保育への対応等に関する実態調査」の調査結果について
自治体等調査の結果
施設調査の結果
という調査結果に対し、各紙をはじめ、報道は大きくこの問題を取り上げましたよね。
小倉こども政策担当相はこの調査結果に対し
「大半の保育所では保育士が子どもの成長に真摯(しんし)に寄り添って適切な保育を行っている。今後、子どもや保護者が不安を感じることなく保育所に通えるようにするとともに、保育士の皆さんが安心して保育を担えるよう対策していきたい」
とあるものの
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保育所など保育施設での不適切な保育1316件 うち虐待122件 防ぐために何が NHK
“国がこれまで不適切保育だとして公表していた件数は340件ほどです。今回の調査は、国がかなり厳格に行いました。
その結果、その3倍以上の件数が表になったかたちです。現場を取材してきた立場からすると、それぐらいはあるのだろうと感じます。”
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などと、厳格な調査結果でやっと浮き彫りになったとNHKは報じています。
NHKさんがなにを取材した根拠を元におっしゃっているのか、そもそもがわかりません。
2.調査結果
今回の調査結果は、各紙もその「不適切保育」914件 、「虐待」は90件という件数ばかりに重きを置いています。
これに対して、私が注目してほしい項目はほかにあります
(1)【1.4】1.2で回答した(「虐待」と確認した)事案の把握の経緯
(「保育所等における虐待等の不適切な保育への対応等に関する実態調査」の調査結果 p46)
回答項目としては、
- 随時の園からの報告
- 当事者の保護者からの連絡
- 当事者の保護者以外の通報
- 指導監査や巡回指導
- 報道
とあります。
虐待を受けたであろう園児が訴えることは難しいにしろ、この回答に対して、
問題の6割以上は、園で把握できていないという事態です。
(2) 【1.6】【市町村のみ回答】1.2で回答した事案の把握の経緯について、事実確認後、都道府県に対して情報提供を行った件数(p16)
この表で見てもらいたいのは、実際に情報提供をした数字です。都道府県が把握したのは全体の1割しかありません。情報の約9割が情報落ちしているという事実です。
3.不適切保育の明確化
2.で申し上げたかったのは、(1)では保育園自体が虐待・不適切保育を把握出来ていない量、(2)では自治体側でも情報落ちがしている実態です。
この2つから、不適切保育とは意図的・組織的にすべてが隠ぺいされてきたわけではないということです。
そして不適切保育をした保育士の把握そのものが難しいのではなく、多くはその定義があいまいによる結果なんです。もちろん人目を盗み、不適切な保育をしている保育士もいるであろうことをすべては否定できません。それでも、その行為そのものが適切な保育の許容範囲か否かの瀬戸際だったことは、うかがい知れないでしょうか?
実際、調査結果に対しこども家庭庁は、
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〇 昨年来、保育所等における不適切事案が多く明らかになったが、虐待等はあってはならないことである一方で、日々の保育実践の中で過度に委縮し、安心して保育に当たれないといった不安もあるものと承知している。こうしたことを受け、今般の実態調査の結果も踏まえ、次の2点を基本的な考え方として、今後の対策を進めていくこととする。
① 1つ目は、こどもや保護者が不安を抱えることなく安心して保育所等に通う・こどもを預けられるようにすること、
② 2つ目は、保育所等、保育士等の皆様が日々の保育実践において安心して保育を担っていただくことである。
調査結果を踏まえ、
・「不適切な保育」の考え方を明確化
不適切な保育の防止及びその対応についてのガイドラインの策定の有無 p54
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という文面を掲載しています。
4.調査結果はすべての結果ではなく、これからのはじまり
私がこれまで説明し申し上げたかったのは、「不適切保育」914件 、「虐待」は90件という実態数の問題ではなく、やっと不適切保育に対しての基本的姿勢と抜本的な問題を明らかにしたのが、今回の調査結果だということです。
国の専門家たちがやっと方向性を打ち出した今回の結果に対し、NHKはその実態数を事前に把握できていたというのはあからさまな嘘です。
そして今回の調査結果ですら、不適切保育の輪郭を十分に明確にしたとは言い切れません。例えば、
・不適切保育を受けた、その行為の期間はいつからいつまで?
・トラウマになった場合、その後遺症の認定は?
・今までのキャリアアップ研修や、倫理に対する取り組みについて、その効果はどれほどだったのか?
・親と保育士との信頼関係(ラポール)形成問題は?
などと、さらに細かく言えば、声のトーン、話す速度、をどうとらえるべきかまで考えなくてはなりません。チェックリストでも抜け落ちるであろう問題が山積みです。
いたずらに保育士の肩身を狭くするような報道はお控えいただきたいです。
また一方で、これまでの保育の伝統を守るような考え方をしている保育士もいると思いますが、時代の移り変わりを受容しなければならないと思います。
私の印象では、不適切保育とは虐待のイメージより、ハラスメントの側面が強いと感じています。ハラスメントとは相手(今回だと園児)が不快な感情を抱けば成立すると定義されています。
つまりは、虐待という犯罪と隣り合わせというよりも、ハラスメントという広域の意味をもつのが、不適切保育なのだと私は感じています。それくらいにデリケートな問題になったと肝に銘じなければならないと思っています。