昨年、こんな記事を書きました。
保育園の生き残りのためには、収益事業の拡大のため、バスの運用活用や夜間保育も視野に入れなくてはならない。そのためにも規制緩和が必要だとまとめています。
さてこの1年、どのような規制緩和が議論され、行われてきたのでしょうか?
1.この1年で一番注目の規制緩和の論点は?
コロナに関するエッセンシャルワーカーへの待機期間の取扱いなどが緩和されたりもしましたが、注目したいのは
児童福祉法施行令の一部を改正する政令案 パブリックコメント結果 2022.2
https://www.mhlw.go.jp/content/000887199.pdf
というパブリックコメントが私の中では印象的でした。
これに対して多くの反対意見があげられました。
「保育園の現地調査」義務なくす規制緩和は問題だ ・・・東洋経済
指導監査緩和やめよ 田村氏 保育の質 悪化まねく ・・・赤旗
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik21/2022-03-25/2022032505_03_0.html
果たしてこの実地指導緩和がもたらす影響はどのようなものになるでしょう?
2.これまでの規制緩和の流れ
保育所の規制緩和はこれまでどのようなものがあったのか振り返ってみます。
平成12年 保育所設置に係る緩和
・・・社福以外の団体(NPO、株式会社等)でも設置可能に
平成14年 小規模保育所の促進と短時間勤務保育士の導入
平成16年 民間からの土地貸与による保育所設置の許容
平成25年 新制度を見据えた保育所の設置認可等について
令和2年 新子育て安心プラン
この他にも、採光規定の緩和などもパブリックコメントにはでてきました。この問題は今後の節電やブラックアウトの問題と、どうやって折り合いをつけていくかが課題になります。
全体の流れから言えばこれまでの規制緩和は、待機児童解消という保育の量の整備のため、民間企業などの参入を促す緩和が多かったことがわかります。
3.民間企業の参入による結果とは
当時、日本のマンパワー確保のためとはいいながらも、民間企業が保育所事業に参入できるようになることは、大きな問題としてメディアにあげられました。
当時の論点としては、「保育の質の確保」が議題としてあげられていました。
民間企業では保育の質が保てないのではないかと言われていたのです。
でも10年以上が経過して、結果はどうなったでしょうか?
一つの指標になるのは、全国の保育所や幼稚園、認定こども園などで起きた事故を保育所数と比較してみます
2020年(令和 2年) 保育定員数296万 事故2,015件
2015年(平成27年) 保育定員数250万 事故177件
上記のように、事故が多発した結果が出てきています。
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline/pdf/h30-jiko_taisaku.pdf
このような状況下で、保育所の実地指導がなくなることはさらなる保育の悪化につながると危惧する意見があります。
4.では実地指導ってなにをしているの?
ここで、問題になるのは指導監査とその効果です。
指導監査はどのようなことをしているでしょうか?
東京都の認可保育園の指導監査内容を紹介します。
指導内容は、大きく
・運営管理
・保育内容
・会計経理
の3分野にわたって調査されます。
ここには確かに、保育内容という分野がありますね。でもその調査内容としては
①保育士の研修参加 ②勤務状況 ③入園のしおり
となっています。もちろん事前の提出資料ですし、実際の現地での指導監査では、さらに保育に係る資料を見ます。ですが、定員数にかかわらず1保育園に係る実地指導の時間は一定なのです。
ましてやたった1日の数時間だけで、1年間の全てを保育内容を見て調べきることは不可能だと思わないでしょうか?
この指導監査で、どれだけ保育の質や安全の担保がとれるといえるでしょうか?
それでも、毎年行われる現地調査が必要なのであれば、私は賛成しかねるんです。
それよりも、保育園には事故の公表と、そのうちで重篤な事故に至った場合には実地監査を随時行っていくことのほうが、事故の抑制につながるのではないかと思えるのです。
5.では保育の質ってなんだったの?
保育の質というのは、もちろん成長を促す面もありますが、子どもを預かり保育することとその責任という部分にもっと重点を置いてよいのではないかと思います。保育の質をすべて保育士の力量に委ねてしまえば、判断する保護者によってもいい保育、悪い保育に差を作ってしまいます。
それよりも指導監査を緩和することで、責任をすべて国や都道府県に持たせるか、それとも保育園それぞれに責任を持たせるかべきなのか、考えていく機会になるとは思わないでしょうか?
その先には、保育料設定の柔軟化など、さらに規制緩和をしていかなければならない問題にもつながっていくものだと思っています。