はりえさん、そこはスワイプですって、さっき言ったやつ、それじゃ画面に指紋塗りたくってるだけですよ。力入れすぎ、手が震えるほど画面押さなくていいんです。
だから嫌いなんだよこういうのは(怒)
「ご主人って どんな人だったんですか?」 |
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「無口な人だったよ。 でも店では ウェイターが 父ちゃんだったの。 私が飯炊きやってたんだ。」 |
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「飯炊きって 肴を作る人って ことですね(苦笑)」 |
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「あんなに しゃべらない人なのに、 父ちゃん目当てで 来るお客もいてね。 (お客からみると) 雰囲気がいいんだと。」 |
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「でも頑固だったんだよ。 おらのいうこと なんか全然きかないし。 意地っ張りなんだよ。 プライドが高いというか。 入院してたって、 居心地悪いんだか 何だか知らないけど 帰るってきかなかったよ。」 |
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「きっとそれは プライドが 高いとかではなくて、 気を遣う人の 特徴な気がしますよ。 病室って多床室、 他の人と一緒の 部屋だったんでしょ?」 |
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「気が回る分、 他の人といると 気が休まらないんですよ。 でも、昭和の男の人って どうしてプライドが 高いんでしょうね? 自尊心が強いというのかな?」 |
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「家族で 出かける時だって、 おらがお伺いを立てて、 本人が納得しないと 出かけないんですよ。 娘たちは よくぶーたれてたわ。」 |
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「男尊女卑というのかな、 家長として自分が 決めたことは家族全員が 言うとおりにしないと ならないって いうことですよね? うちもそうでしたよ。 うちの父はなんでも 結果通知タイプで、 家族が知らないうちに いきなり物事が 進んでいることが 多かったですね。」 |
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「バイスティックの7原則、 自己決定の原則ですね。 ジョン・スチュアート ・ミルという哲学者の 『他人に迷惑を かけない限り人間は 何をしても 自由である』の言葉があり、 語源には 「自分で自分に 自身の法を与える者」 という 古代ギリシア語に 由来する概念が 元にありますよ。」 |
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「おらにはわからね」 | ||
「人は内面に 自己実現したい 自分がいるそうで、 それが実現することで 心が満たされるそうです。 自己実現に向けた課題、 問題を解決するためにも 自己決定することが 何より大事だと 学校で習うもんです。」 |
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「なにいってるか わからんけど、 なんでもかんでも 決める父ちゃんだったけど、 そのプライド、 自尊心? というやつがない 父ちゃんは 嫌だったかもしれない。 自分に自信のない人 っていうのは、 男性として 魅力がないようにも 思えるね。」 |
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「それって、 問題なのかもしれませんよ。 男は男らしく、 女は女らしく ということ自体、 男女平等な考え方とは いえませんからね。」 |
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「女のおらからすると、 男性に尊敬を 求めている部分は ある気がするね。 人によれば 母性本能を くすぐるタイプの 男性が好きだ ともいう人もいるよ。 これはジェンダーという 問題なのかい?」 |
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「うーんごめんなさい。 これは私の専門外の 話なのかも。 ジェンダー(性別)は デリケートな話で うまく線引きは できない話かな。 でもはりえさんが 話していることは、 夫という一人の 男性への思いだから、 問題にはならないか。」 |
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「でも旦那さんが どのようにして、 そのように 人格形成に至ったか というのはわかる気がしますよ。 特に当時の 時代背景からいえば、 『口数が少なく、気高い』 ことこそ男らしい だった気がしますからね。」 |
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「時代背景ね。 それはあるかもしれない。 みんながみんな こうでないとならない、 なんていう固定観念? というのが強い時代だったからね。 父ちゃんが 思い描いた通りに 生きられた時代じゃない、 自己決定権、 自己実現ができない 時代だったのかもしれないね。 社会全体が そんな感じだから、 家でも家長以外の 意見という多様性は 認められない人に なってしまったのかもね。」 |
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「本当は気遣いの できる人だったのなら、 娘さんたちの 意見を尊重する 気がしますが、 それをあえて しなかったとしたら、 一種の娘さんたちへの 教育だったのかも しれませんね。 『女はこうあるべき』 という。」 |
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「当時は今より ずっとゆるーい時代だった と思うんだ。 今のように なんでもかんでも 白黒つけたりしない 部分もあったけど、 当時は当時で 生きづらい部分も あった気がするね。」 |
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「ま、あの人は そんなに よく考えて生きてる 人じゃなかったけどね。」 |
「スワイプってどこのボタンだっけ?」
「もう(怒)」